多くの情報が絶えず更新され、すぐに答えや結論が求められる現代において、
私は絵画が、立ち止まり思考や感覚に向き合うための
ひとつの場になり得るのではないかと考えながら制作しています。
日々の中でふと残る記憶や感覚は、言葉よりも先に、
色として思い出されることがあります。
私はその感覚を手がかりに、記憶の断片を色へと置き換え画面に重ねていきます。
描き、削り、また描くという往復の中で、
色は意図して配置するというよりも、
制作の過程の中から自然に現れてくるもののように感じられます。
画面にあらわれる白は、余白のようでもあり、光の気配のようでもあり、
同時に絵具の層を持つ表面でもあります。
そのため絵は、壁のようにそこにありながら、どこか奥へと広がる空間としても感じられます。
色を重ねていく時間の中で、光と物質、存在と余白のあいだに
ゆるやかな関係が立ち現れてきます。
私はその関係を探りながら、見る人がそれぞれの感覚や記憶に立ち返ることのできる
絵画の場をひらいていきたいと考えています。